彼のメールに一部、激昂しながらも、私は筆を走らせた。
・・・・・・・・・・Re.Re 18:21・・・・・・
名前の知らない人からのメールが恐怖なら、
そんなメールに取り合わなければいいじゃないですか?
普通の神経の人ならそうしていると思いますよ。
名前も知らない人に好きになれそうとメールを送るあなたの方が
おかしいと私は思いますよ。
・・・
と、ここまで書いて一度筆を休める。彼に伝えたいことは、こんなことではない。こんな風に罵りあうために、私は彼にメールを書いたわけではない。最後に彼に伝えたいのは、こんなことじゃない・・・と私は思った。彼を責めることを書いて、何になる?そんなことをしても、きりがないし、意味がない。今日、ここでのこのやり取りが、最後なんだ。もっと他の言葉を、もっと他の何かを伝えなければ・・・。もっと素直に伝えなければ・・・と思い、気を取り直して、続きを書いた。
・・・・つづき・・・・・・・・・・・・
私はあなたの幸せを本当に願っていました。
でも、あなたは私が誰かを知ってしまったら、
私になど幸せを願ってもらわなくて結構と言うでしょう。
間違いなく。
あなたの影となり、幸せを見届けられたらと
本当に思いました。
でも、最近、思いました。
私はあなたの幸せを願うべきじゃないって。
そう、あなたは私に幸せなど願われてもちっとも嬉しくない。
そういうものなんだって事がわかったのです。
だから、やめようと思いました。
私はあなたの幸せを望むべきじゃない。どんなかたちにせよ、そうわかりました。
だから、もうこれをやめるしかできないと思いました。
影で支えることが多分、最も必要とされていないことだとわかりましたから。
私が誰かわかりました?
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もう、分かるだろうと思った。名前を言わずとも、充分わかるだろうと思った。それでも、良いと思った。伝えたいことは、私の名前ではない。知りたいのなら、察して欲しいと思った。言葉にすることなく、せめて察して欲しいと思った。
メールを書きながら、何でか泣きそうになった。激昂した気分は、悲しみにと変わりつつある。静かな研究室で、息を止め、堪えた。それが通り過ぎるのをじっと堪えた。堪えながら、私は2度、鼻をかんだ。そして、パソコンの画面を見つめる。自分の書いた文を静かに見直した。目をつぶって、大きく2回、深呼吸をする。そして、目を開く。冷静にならなくては・・・いけない。
今までのいろんなことが、断片的に私の中に蘇り、私を捕えている。キーボードの手は無造作に置かれたまま、打つことができない。なんで、こんなことをしているんだろう。なんで、こうなってしまったんだろう。なんで、こんなに悲しいんだろう。なんで、声が届かないんだろう。何で・・・、何で・・・。・・・堪える・・・私。結局、何もできなかった。結局、私は何もできなかった。残ったのは、何もできなかったという事実だけだった。私はこの人に、何も出来なかった。何もしてあげられなかった。そう思うと、また悲しみが込み上げてきた。はぁ~、もぉ~、これ以上、言葉を重ねられない・・・と思い、鈍い手でマウスを操作すると、送信ボタンを押したのでした。
さてさて、ポテンシャルが落ちてしまった私に対して、彼はどんな返信を返してくるのでしょうか・・・(つづく)。