格好悪い生き方について、再び思考をめぐらす私。彼からのメールはおはようメールが主となる。私は私で学会まで1週間をきり、研究室内での発表練習などめまぐるしい1日を送っていた。これが本来の姿。これが本来の私。彼がいなくったって頑張れるし、こうして本業に打ち込める喜びも同時に噛み締めていた。だけど、いろんな無理がたたってか、この頃、ちょっと体調不良に陥り、久しぶりに診療所へと行く。学会前に治しておかなくちゃいけない気もした。よくわからないけれど、血液検査をされる。とりあえず、ってことらしい。相変わらず、血管の細さに驚かれ、気合を入れて採血される。久しぶりに病気の気分になる。検査結果は一週間後。とりあえず薬をもらい、学校に戻る。
私は、ちょっとぐらい体調不良でも、別に気にもとめない。痛くなるときもあるし、それなりに思う所もあるけれど、あんまり考慮しない。今迫っていることの方が大事だし、結局の所、自分の存在に執着してないのだ。そして、私のこの研究室も含め、この業界は無理してナンボの世界でもある。うちの研究室のもと助手さんは、過労死。そして、この分野の大先生も一昨年、過労死で亡くなられた。休まなくて当たり前。そんな世界。でも、病気になると置いて行かれる。つまり、剛健な人しか生き残れない世界だった。だから、私も休まない。みんなも休まない。人の何倍もの早さで、こなせる人しか休めない。そんな生活。社会人になった後輩は言う。「研究室にいるよりいいです。給料ももらえるし、会社帰ったら、何にもしなくても良いんで」―と。
そんな生活を送りながらも、私は、彼のことばかり考えていた。この期に及んでも、彼のことが好きだった。何で好きなのかそれもどうにも説明できない。だけど、もうどんなにひどいことを言われ、されても私は身を引けないところにいたように思う。私にとって、結婚を決意するってことは、やはりそれだけのものだったのだと思う。それくらいの思いがなければ、出来ないものだったのかもしれない。彼はいとも簡単に、その告白をひるがえしたけど、受ける私としてはそれだけの決意が必要だったのだ。
再び、格好の悪い生き方について考えてみる。でも、学校で格好悪い生き方をするのは難しい。それなりに立場もあるし、役割もある。だけど、親しい友達や好きな人の前で自分をさらけ出すことに何の恥じらいもいらないのではないかと考える。もっと素直に、もっとそのままでいいじゃないかと思ってくる。そう考えてくると、彼にすがることも、ちっとも格好悪いことじゃない気がしてきた。私はそれが出来ないばっかりに、間接的に彼を責めてきただけじゃないかとさえ思えてくる。本当は好きでたまらないのに、本当はまだ好きなのに、そう認めたくなくて、そう言えなくて、どこが好きなのかもわからなくて、だから、なんかカッコつけて、知らない振りして、何にも感じていない振りをしているだけなんじゃないかって思った。なんて女々しい女なんだろうって自分で思う。
そんなことを考えながら、あっという間に夜になり、後輩たちと学食に行く。今日は久しぶりに22歳の子とご飯を食べた。彼にメールを打った。「久しぶりに若い子とご飯食べたよ~」と。そしたらすぐさま、「男の子?」と来るので「そうだよ」と返すと、「いい人ができそうで良かったね」と返事が来る。カチーン・・・。工学部なんだから、男が多くて当たり前って言うのも知ってるはずなのに、何ですぐそんなことを言うのだろうと、本当にむしゃくしゃする。夜に思わず電話してしまう。「どういう意味?」・・・そのまんまだけど、いい人できそうで良かったなぁ~って思ったからそうかいたんだよ。「ただの後輩だよ、しかも学食だよ。どこにそう思う余地があるの?私がまだ気持ち残ってるの、知ってるでしょ?」っとやや強めの口調で一気に話す私。「俺なら、気のないヤツと食事を一緒にしない。時間ももったいないし、誰かと食ったことないよ。」・・・えッ?・・学生時代も?「うん、そうだよ」・・・(単に、友達がいなかっただけなんじゃ・・・)・・・「でもね、確かにね、一人で食べたほうが早く食べ終われるし、面倒くさくない部分もあるよ。でも、でもね、食事の時に後輩の近況を聞いてさ、相談に乗ってあげることも必要なんだよ。そこでしか、話せないの。研究室で話していると目立つしね、さらっと言えないの。呼び出してわざわざ聞いてもらうような話じゃない、だけど誰かに聞いてもらいたいって話があるもんなの。そういう時間を持つことでね、後輩が何に困っているかとか、何に悩んでいるかとかもわかるし、何かあったときとか、どうにもならないときは手を貸しやすいのよ。これは、結構重要な時間なんだよ」と一生懸命説明した。これ以上、誤解されたくはない。「俺は、でも、理解できないね。時間がもったいないもん。飯食えばいいでしょ、若い男と。俺と食べるよりもおいしいんじゃないの。フン!」
・・・私はこれでも好きなのか?とさらに自問自答してしまうが、やっぱり好きなのでした・・・(つづく)。