お盆開け、早速仕事を開始する。お盆過ぎの17日もほぼ徹夜で準備し、次の日の早朝に私は後輩を一人引き連れて、患者さん宅へと向かった。仕事は実務だけど、実際は説明するのが仕事だった。「こうします」「こうしてもいいですか?」「こうするとこんな点が良くなりますが、ここにこういったことが生じます」等々。患者さんのご家族さんとの対立もあったが、これ以上彼にナメられても敵わないという思いと、妥協してよくないものを提供したくないと言う思いから、何度も何度も納得いくまで説明して、了承を得る努力をした。昼休みに、彼に写メールする。「今のところ、こんな感じ」と。「頑張ってネ」とすぐに返信が来る。
作業は夕方までびっちりかかった。ボランティアといえど、クタクタだった。だけど、出来上がったものは、ご家族を充分満足させえるものだったし、「これならいいわ~」と大喜びののちに終った。私は彼の家にとまって帰るので、後輩をバスに乗せていかねばならなかったが、ご家族の方がどうしても夕食をご馳走させて欲しいと申し出て、結局非常に上品なお店でおいしいものを戴いた。手伝ってくれた後輩には日給6000円で3日分のバイト代を出した。いい働きをしてくれた。そしてもちろん、ポケットマネーではない。後輩には「せっかくだから友達の所に泊まって帰る」といい、バス停まで見送った。
彼のマンションには7時半頃に着く。もうお腹いっぱいだが、彼のためにスーパーまで買物に行き、彼のためだけに料理を作る。こうしてもう、腕をふるえるのも残り少ないだろうな-と感じる。8時過ぎに彼が帰宅する。機嫌よく「お疲れ様。言ってくれたら、もう少し急いでつくったのに」と言うと、「ここはオレの家なんだ。俺がいつ帰ってこようとお前には関係ないだろ。俺は嫌なの。お前が部屋にいると思うと落ち着いて仕事してらんないの。メシ、お前食ったんだろ。だったらつくらなくてもいいのに。フン!」という彼。カワイクナ~イと思う私。何なのよ、全く。もっと他に言い方あるでしょうが・・・と思うも言葉を飲み込む。もう、そういうことにも慣れっ子だった。「いいよ、つくるから。ちょっと待っててネ。」・・・俺は別に急いでないから、適当でいいぞ。風呂入って来るわ。といって、いつも通り自分勝手に済ます彼。・・・ハイハイ、どうせあなたの家です。何しようと勝手です。どうぞご勝手にという気分の私。それから彼は、お風呂から上がって、ごろんとラグに横になり、いつものように漫画を読んでくつろいでいた。その間、私は焦りながらも、料理を作る。待っていられると、余計に焦るのが私。待たせちゃ悪いと思ってしまうのだ。
「ハイ、出来たよ~」というと、あっ?って感じで、別に興味ないんだけど、食ってやるよって感じで立ち上がって、ノソノソと席につく。いただきますもいいやしない。一口食べていった言葉は「おいしいって言えばいいんでしょ」だった。その辺のおかずを顔にぶつけたくなる衝動をおさえる。食べ物に罪はない。「無理に言う必要はないよ。いやだったら食べなきゃ良いんだし」と平静に言う私。「イヤ、おいしいよ。だけど、味が薄いんだよ」。・・・私には良いんだけどね、それぞれだもんね。でもね、薄いのは濃く出来るけど、濃いのは薄く出来ないと思うんだ。それも考えてつくってるの。と言うと「俺は濃いぐらいがちょうど良いんだ」。・・・わかった。それから、話は今日の仕事の話になる。「うまく言ったよ」と言うと、「ホントか?お前でちゃんと出来たのか?」と言われる。相変わらず辛辣な言葉は続く。「後で写真見せてあげるから」と言う私。食事はこんな感じで終了。食後はお決まりの、ラグゴロ寝。
デジカメで取った写真を早速彼に見せる。「ほらね、こんなになったんだよ。見違えたでしょ~」というと、「ふーん、まあいいんじゃないの」と彼なりに誉める。でも、その後に、「まぁ、やっぱり俺が言ったからだな・・・」と彼。はぁ・・・疲れる一言。「でもね、大変だったんだから・・・」といって、いろいろ説明する私。その話を一通り終えた後、「でもそれがお前の仕事だろうが。フーンだ。俺が言わなかったらこうならなかっただろうが。でも、こんなのあったんだね。まっ、頑張ったんじゃないの」と締めくくる彼。アンタに説明した私が馬鹿でしたって感じだった。それから彼は、今大変な患者さんがいるという自分の話をひたすらはじめ、どうしたらいいかな~を繰り返す。それこそアンタの仕事でしょ・・・と思う私。
もう心は冷め冷めのでしたが、この日の夜も彼は結局私を求め、非常に疲れている私はその抵抗力も失って、彼の成すが侭にされて終るのでした。私ってアンタの何なのよ~という言葉が夜の闇夜に深く解けて消えました・・・(つづく)。